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後方の保護者席からも秘かなざわめきが伝わってくる。 学園設立以来、オメガの生徒が答辞を読み上げるのは初めてのことらしかった。 以前伊奈が、オメガ初の総理大臣に、なんて相馬のことを言っていたが、それもあながちないとは言い切れないと鈴蘭は相馬を眩しく見つめた。 きっと伊奈は誰よりも誇らしげな顔をしているに違いない。 鈴蘭は前方の卒業生席に視線を移した。 アルファクラスは最前列に座っており、オメガクラスは一番後ろの列だ。 この配置順すらアルファとオメガの格差をしっかりとものがたっている。 誠悟の後ろ姿を探したが、普通クラスの生徒達に阻まれて全く見つけることができなかった。 この学園で鈴蘭は素晴らしい友人と、心から愛する人に出会えた。 それは自分の人生の中で最高の宝物になると感じた。 ふと、今朝父に言われた言葉が脳裏をよぎる。 オメガの子供を産む。 それが以前椿が言っていた、オメガをオメガとして扱う、という意味なのだろうか。 オメガはすぐに孕む、そんな偏見を古い人達がいまだに持っていることは知っている。 確かに、ヒート状態でオメガとアルファが行為に及べはほぼ百パーセントに近い確率で妊娠するのは事実だ。 しかし父は、『オメガと』結婚しろと言った。 鈴蘭に求められているのは、アルファでもベータでもなく、オメガの子供を産むことなのだ。
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