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だから鈴蘭は、誠悟という人をより知るために彼の家に来てみたかった。
やはり玄関には男物の靴しかなく、花や置物など余計な物は何一つない。
リビングに案内され部屋を見回しても、シンプルすぎるその室内に少し胸が痛んだ。
「何か作るよ」
制服のジャケットを脱ぎ、誠悟は腕まくりをした。
「誠悟……」
その背中に鈴蘭は抱きついた。
「鈴蘭?」
「誠悟…。僕、誠悟のこと、もっと知りたいよ」
誠悟は自分のことを多く語らない。
語ることで何かが曝け出されることを怖れているように。
特に母親の話題になると口を閉じてしまう。
それは運命の番であっても踏み込んではいけない彼の領域なのだろうか。
自分は彼の慰めにはならないのだろうか。
誠悟という人を知れば知るほど、彼の母親の影が誠悟の背後を暗く脅かしているような気がして仕方がなかった。
「誠悟……。お母さんのこと、やっぱり僕にも話せない……?」
将来誠悟と番う決意は鈴蘭の中で揺るぎのないものとしてしっかりある。
だから彼のことなら全て受け入れたい。
与えられた優しさだけでなく、彼の傷も痛みも、分け合って半分にしていきたい。
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