1988人が本棚に入れています
本棚に追加
土曜日の夕方、履き慣れない高くて華奢なヒールの靴を履き、鈴蘭は黒いクラシックカーの中で今日のパーティーのパートナーと対面した。
どこぞの財閥の息子だとかで、いかにも苦労知らずな大学生の男だった。
「わあ！まるで女の子みたいだね」
「どうも…」
この一ヶ月、ハイヒールでの歩き方をみっちり仕込まれ、簡単なダンスのステップくらいなら踏めるようになった。
肩近くまで伸びた髪の毛はアップにまとめられ、清楚なメイクに耳元で光るイヤリング。
しかしどれだけ着飾りどれだけ華奢な体つきをしているとしても、女の子よりは広い肩幅に腕にはうっすらと筋肉がついている。
それを隠すように薄手のショールをかけられたけど、鈴蘭はせめてもの反抗でそれを肩から下ろした。
そして一番屈辱的だったのは首を隠す四連のパールの輪で作られた首輪だ。
これはオメガが首を守るためにデザインされたものだ。
女のドレスを着て偽物の女になりきり、そして首枷までつけられて。
この行為がいったいどれだけの利益を星崎にもたらすというのだろう。
逆に星崎のオメガを見世物にしているだけではないか。
隣で必死に鈴蘭のご機嫌を取っている男に、半分うわの空であいづちを打っていると、車はいつの間にか古風な洋館の前に停まっていた。
最初のコメントを投稿しよう！