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誠悟の頬を濡らしていく涙を鈴蘭はそっと指先で拭った。 この涙は彼の母への思いか、それとも憎むべき『運命の番』という存在を愛してしまうことへの懺悔か。 いつも朗らかに笑っている誠悟の内にこんな葛藤があっただなんて。 「誠悟」 鈴蘭は彼の体を抱きしめてみた。 いまだ少年のような肉の薄い鈴蘭の体とは違い、しっかりとした筋肉、肉付き、背中の広さ。 誠悟の体はすでに青年のそれへと成長していた。 自分より逞しい彼にもしかして甘える気持ちが大きくはなかったか。 誠悟なら自分の全てを受けとめてくれると思い込んではいなかったか。 腕の中の誠悟は、まるで子供のように肩を震わせ泣いているというのに。 鈴蘭はオメガに生まれた劣等感から自分ばかりが大きな重荷を背負い込んで生きているつもりになっていた。 でもアルファとして生まれた誠悟だってこんなにも悩み苦しんでいる。 「誠悟」 誠悟を抱きしめる腕に力を込める。 「誠悟、好きだよ。きっと君が運命の番でなかったとしても……、こんなにも好き」 そう、きっと運命の相手でなくたって自分は誠悟に恋していたと思う。 強く、優しく、そしてこんなにも脆い誠悟の一面をも鈴蘭は愛おしいと思った。
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