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鈴蘭は少しだけ誠悟から身を離し、ジャケットのボタンをひとつ、ふたつ、と外すとネクタイも抜き取った。
二人の隙間には熱い呼気がこもっていた。
誠悟の目がじっと鈴蘭の指を追っている。
この先の展開をちゃんと予想しつつも、誠悟の瞳は不安に揺れていた。
その不安がまるで手に取るように伝わってくる。
全てを吐露した今、誠悟は鈴蘭を愛する資格があるのか戸惑っているのだ。
人を好きになる気持ちを拒絶し、それでも運命に逆らうことができずにいる誠悟。
そんな彼に鈴蘭がしてあげられることはひとつだと思った。
自分がどれだけ誠悟を好きか、運命よりももっと溢れる気持ちを彼に伝えてあげること。
人を好きになることは悪いことではないと、彼に感じて欲しい。
「誠悟の部屋に、いこう」
乾き始めた涙の筋が残る頬をそっと包む。
「でも……」
「僕はきっと君に会うためにオメガとして生まれてきたんだね」
鈴蘭の中から、自分がオメガであるという劣等感はすでにもう消えていた。
「僕が生まれてきた意味を、誠悟が与えてくれたんだよ」
大げさではなく本当にそう感じた。
まだまだオメガが生きるのに易くないこの世の中で、自分の性が誇らしく感じられたのは初めてだった。
運命に怯える誠悟にそれだけは伝えておきたい。
運命とは悪いことばかりではないのだと。
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