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門前には送迎のための高級車が列を成していた。
運転手がドアを開け、先に連れの御曹司か降りた。
手を差し出され、その手に鈴蘭は自分の手を乗せゆっくりと車を降りた。
肩を隠すショールは車中に捨て置いた。
全面パールで覆いつくされた小ぶりなパーティーバッグを片手に、連れの男に腰を抱かれ館内に入る。
九条の執事達が慇懃に頭を垂れる中、大広間のドアをくぐり抜ける。
こんな世界もあるのかと、鈴蘭は目を瞠った。
外国の古典映画で見るような、そんな景色が目前に広がる。
大きなシャンデリアの下で華美に着飾った人達が優雅なしぐさで談笑していた。
「あら、ごきげんよう」
明らかにハイクラスのマダムが微笑んだ。
連れの男は車中でご機嫌取りをしていた態度とは一転して、立派な貴公子のように挨拶する。
「今夜はまた可愛らしいお相手をお連れなのね」
マダムが鈴蘭をちらりと見て、真っ赤な唇を緩ませた。
その笑みに、男のくせにこんな恰好をしている自分が嗤われているような気分になり、鈴蘭は気持ち、肩を縮ませた。
「彼は星崎の鈴蘭くんですよ」
男が少し自慢げに鈴蘭を紹介する。
「ご…ごきげんよう…」
秘書に仕込まれた、とりあえずの挨拶を、鈴蘭は震えそうになる声で捻り出した。
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