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「あら…、星崎の…?」 馬鹿にされると思っていたが、マダムは急に鈴蘭に興味を示した。 「それじゃあ椿さんはもう引退されたのね」 マダムは鈴蘭の従兄である椿のことを知っているようだった。 喉が締めつけられるように苦しくて、うんともはいとも言葉を発する事ができず、鈴蘭はただ微笑んだ。 星崎、という名前を聞きつけたのか周りにいたご婦人達の視線が鈴蘭に集まる。 「今年の新作はこのドレスなのね。素敵」 「私には少し若すぎるデザインのようね。でも娘にはちょうど似合うかしら」 じろじろと鑑定するように全身を見られて、どんどん鈴蘭の背中は丸くなっていく。 「鈴蘭さん」 聞き覚えのある声に、鈴蘭ははっと振り返った。 祖父の第一秘書である伏見がいつのまにか背後に立っていた。 「あら、伏見さん」 女性達はうっとりと伏見に視線を移した。 彼女たちの視界に入らないよう伏見に背中をぽんと叩かれ、鈴蘭は彼に教わった通り下腹を引き締め背筋を伸ばした。 星崎のドレスを魅力的に美しく着る、それが今夜鈴蘭に課せられた使命なのだ。
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