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毎日当たり前のように家事をして、当たり前のように父と誠悟の帰りを待っていてくれる。 それが母親の幸せだと、なぜ信じて疑わずにいられたのだろう。 親戚達から漏れ聞こえてくる噂話は、誠悟の知っている母親とはまた違った一面を教えてくれた。 母は父親と結婚する以前はキャリアウーマンとして世界中を飛び回っていたらしい。しかし父と結婚して、そして子供を身ごもって、彼女は全てのキャリアを捨てた。 ひたすら普通の主婦として家の内を切り盛りしていくのに我慢できなくなったのではないか、それが親戚一同が出した結論だった。 では、それでは、母親を『家』という檻に閉じ込めていた原因は自分なのか。誠悟は己を責めた。 そして、母親の新しい恋人の噂も耳に入ってきた。 母が家族よりも、息子を捨ててまでも選んだのはオメガの女性だった。 その女性は母よりひとまわりも年下で、スーパーマーケットのレジ係を仕事にしていたごくごく普通の人だったそうだ。 母が買い物によく行く店で知り合い、そして、恋に落ちた──。 母親がアルファだからオメガに惹かれるのは当然なのか。父が言っていたように運命には逆らえないとでもいうのか。 運命の番というのは本能で惹かれあうという。 本能に支配されるだなんて、アルファもオメガもただの獣ではないか。
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