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あんなに恐れていた運命の番だというのに、鈴蘭という一人の人間を知っていくにつれ、誠悟は彼を好ましく思っていった。 オメガ特有の卑屈さを持ちながらも、懸命に人に優しくあろうとする鈴蘭。もしも運命という鎖で繋がれていなかったとしたら、誠悟は普通に鈴蘭へ恋心を抱いていたかもしれない。 しかしひとつだけ心の奥底で引っかかっているものは、やはり理性ではどうしようもない獣のような本能が自分の中にあるということだった。 鈴蘭を見るとどうしようもなく欲しくなる。自分の身体で組み敷いて、果てのない性を注ぎ込みたいと思ってしまう。鈴蘭が可憐で清い笑顔を向けてくるたびに、誠悟は自分の穢らしさを知った。 誠悟は運命に、自分の性に、白旗をあげた。 こんなの、もう、抗えるわけがないじゃないか。 恋人としても、運命の番としても何ひとつ申し分のない鈴蘭。彼を拒否できるわけがなかった。 誠悟は自分の本能に流されるがままに鈴蘭を愛した。将来を誓う言葉が自分の口からすらすらと出るのを、どこか他人事みたいに感じた。 近い未来、鈴蘭と番うことが自然の摂理なのだと納得した。 それを恋かと尋ねられたら、はっきり答えられない自分を感じつつ。
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