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高速道路から半年ぶりに見た都内の空は、相変わらず排気ガスで霞んで見えた。それでも鈴蘭は車の窓を全開にして、大きく息を吸い込んだ。 高校の卒業式のあの日、誠悟の部屋を後にした鈴蘭は、まっすぐに父親の元へと向かった。すでに大学への進学が決まっていたが、日本を離れ祖父の傍で家業の勉強をしてみたいと打ち明けるために。 星崎の着せ替え人形ではなく、星崎の血をひく人間としてもっとできることがあるのではないか。オメガという性を売りにせずに家業に貢献できることがあるとすれば、それが誠悟に対して恥じない生き方になると思った。 きっと反対されるだろうと覚悟の上で鈴蘭は父親へと向き合ったのだが、なぜか父親は上の空で首をたてに振ったのだった。その理由を鈴蘭は異国の地で知ることとなった。 日本を出て、初めて出席した海外のパーティーは、いつもと違い男性用の礼服が用意されていた。てっきりこの夏の新作ドレスを着るように申しつけられると思っていた鈴蘭は軽く肩すかしをくらった気分で、パーティー会場へと足を踏み入れた。 「君、星崎のアイコンの子だよね」 慣れない異国の言葉に戸惑っていた鈴蘭に、流暢な日本語で話しかけてきたは金髪碧眼の男だった。年上の紳士かと思って身構えた鈴蘭だったが、彼の笑顔や身のこなしからどうやら自分と同年代のようだと悟った。 笑った顔が中性的で可愛い印象を与えるその男性は、某王室御用達デパートを経営する一族の子息で、『レオ』と名乗った。
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