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ファッション界の重鎮からバッシングを受けるということは、ブランドの衰退に繋がる。編集長の批判コメントを載せた号は、まさに鈴蘭の卒業式の日に発売されていた。 だからあの翌日、鈴蘭の話を父親は上の空で聞いていたのだろう。星崎のオメガ云々よりも、もっと心配しなければいけないことが父にはたくさんあったはずだ。 「でもまあ、星崎のパルファムはバカみたいに売れてるようだよ。早く買わないともう二度と手に入らなくなるかも、ってね」 「どういうこと?」 「だから、星崎がつぶれちゃう前にコレクションしておこうって事だよ」 鈴蘭は、一瞬にして血の気が引いていくのを感じた。足下の地面ががらがらと音をたてて崩れていく。これから自分はどうすればよいのだろうか。 星崎のために自分に出来ることを探すため、祖父について世界を回ることを決意したばかりだというのに、すっかり出鼻をくじかれてしまった。呆然とする鈴蘭の手を引き、レオは屋外へと連れ出した。 外の新鮮な空気に、逆上せあがった思考がクールダウンしていく。 「うちも一時は閉店の危機が噂されたことがあったんだ」 レオは少し可笑しそうに鈴蘭へ振り返った。 数年前、レオの一族が経営する百貨店は次々に支店を閉店させた。倒産は免れないかと思ったが、じわじわと売り上げは回復していき、現在でも王室御用達として有名店のまま存在している。 「それまで富裕層相手にしか商売してなかったからね。驕りがあったんだよ。王室御用達なんて言われて。でも黙っていても客は来る、なんて時代は終わったんだ。こちらから門扉を広げなければ客は来ない」 「こちらから……」 時代の動きに呼応して、自分達が変わらなければいけない。今までの着せ替え人形である自分を捨て、何か新しいことをするために鈴蘭は祖父についてやって来た。 まさにその変革のタイミングが今、自分に与えられたのではないか。ぶるりと武者震いのような震えを背筋に感じた。 自分の人生と、星崎の未来がリンクした。 「レオ……、お願いがあるんだけど……」 鈴蘭は姿勢を正し、レオへと頭を下げた。
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