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あの頃とは違い、短くなった襟足を窓から入ってくる風が擽る。 「ちょっと、寒いよ」 レオに言われて鈴蘭は慌てて車の窓を閉めた。 この同じ空の下、どこかに誠悟がいる。突然消えた自分のことなどすでに忘れていてほしい。運命なんかに操られる恋じゃなくて、本物の恋をみつけていてほしいと思う。 同時にいつまでも忘れないでいてほしいとも思っている。いつまでも彼の心の隅っこに自分を置いていてほしい、と。 鈴蘭の中は今も誠悟でいっぱいだ。七年も経つのに、まだこんなにも()がれている。 いつの間にか車は高速をおりていた。空港からそのまま自宅に向かうと思い込んでいた鈴蘭は、見慣れない辺りの景色に首を傾げた。 「伏見さん、どこ行くの?」 七年の間に椿の夫となった伏見。祖父はとうに引退しており、今は鈴蘭の父親の秘書として働いている。一時は衰退した星崎ブランドもPOLARISの成長に比例するように盛り返してきた。 伏見ならどんな企業でも優秀な秘書として勤めあげるだろうが、星崎を見捨てず残ってくれたことに感謝している。そして鈴蘭の大好きな椿を大切に愛し続けてくれていることにも。 伏見と椿の間には可愛い女の子が生まれた。その従姪に会うことも今回の帰省の楽しみだったのだが。 後部座席からカーナビを覗き込んでいると、隣でレオが笑う気配がした。 「鈴蘭はアルファ用の抑制剤が開発された話知ってる?」 鈴蘭は首を横に振った。定期的な発情期のないアルファに抑制剤など必要あるはずがない。 「オメガの発情に引き摺られないための抑制剤が開発されてるんだ」 「本当?」 鈴蘭は目を瞠った。
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