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五十席程度しかない小さな教室。鈴蘭は窓を開け、一番後ろの席に腰を下ろした。 ここまでがむしゃらにやってきたけれど、もし誠悟に出会わなければ、鈴蘭は迷わず大学に通っていただろう。そして自分の力では何もできないと思い込み、星崎の衰退を見守るだけの日々だったかもしれない。 歩んできた道に後悔はないけれど、大学に通ってみたかったなとも思う。今日未知と再会し、もう結婚できる歳になったんだと実感した。未知を見て、人生はやり直しがきくのだということを知った。 「結婚か……」 鈴蘭の恋心は今も高校生のままだ。レオがたまにふざけてプロポーズをしてくれるが、新しい恋なんてできそうもない。このまま一生ひとりで生きていくのかもしれない。 開け放った窓からは学生達の声が聞こえてくる。彼らの声は希望に満ち、未来がある。 「誠悟……、さみしいよ……」 たまに襲ってくる猛烈な寂しさ。鈴蘭はじっと目を閉じ、それをやり過ごそうとした。もうそんな感情には慣れっこだった。その寂しさを受け入れることにも。 しかしなぜかその寂しさがいつまで経っても退いていかない。それどころか胸の奥にぽつっと小さな火が灯った。 「あ……」 寂しさと誠悟への愛しさが混じり合い、体の奥から熱いものが湧き上がってくる。 「まさか……、発情期……?」
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