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鈴蘭の様子を一目見て事情を悟ったのか、誠悟は後ろ手にドアの鍵を閉めた。 誠悟だ、と思った。本物の誠悟。会いたくて、恋しくて、今も鈴蘭の胸を焦がし続ける彼。 「誠悟……、誠悟……!」 鈴蘭は誠悟の胸に倒れ込んだ。誠悟の体温、匂い。全てがあの日のまま。 「鈴蘭……!」 誠悟に力強く抱きしめられ、このまま胸の鼓動が止まればいいのにと思う。鈴蘭が生きている時間の中で、誠悟に触れている一瞬が最高に嬉しい。 再び出会ってしまったら、もう二度と彼のいない人生なんて生きていけないと思ってしまう。そして悲しいほどに誠悟も鈴蘭を求めていて欲しい。 運命なんて、運命だけで繋がれている関係なんて嫌だと思うのに、こんなにも運命に感謝している。自分の運命の相手が誠悟であることに。 「あっ……、ああっ……!誠悟!誠悟!」 鈴蘭は我を忘れるほどの恋しさで誠悟の唇を求めた。しかし誠悟は鈴蘭の肩を押し、少し距離をあけて見つめてくる。 「鈴蘭、これ、飲んで」 一錠の白いカプセルが鈴蘭の唇のすき間に押し込まれた。鈴蘭は言われるがままにそれを飲み込む。 「これっ……、何……?」 「抑制剤。未知に持って行けって言われた」 もしかして未知は、誠悟の存在に鈴蘭の発情が引き出されるのを予想していたのだろうか。誠悟はミネラルウォーターのキャップをあけると鈴蘭に持たせた。 冷たい水が発情した体に染みわたる。体の内側から少しずつ熱が引いていくのを実感した。冷静になり始めた思考。そういえば目の前の誠悟は、なぜ鈴蘭の発情に影響されていないのだろう。 「誠悟は、平気?」 初めて出会ったあの夜は、獣のように鈴蘭を求めてきたのに。求められなくて少し落ち込んでいる自分がいる。
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