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「ああ。アルファ用の薬を打っているから」
レオが言っていた新薬だろう。運命の番の発情期にすら引きずられないなんてすごい効き目だ。
「すごいね……。本当にヒートしないんだ……」
もしかして再開に胸焦がしているのは自分だけなのだろうか。誠悟は鈴蘭を見ても何も感じないのだろうか。
運命なんか無視して、本当の恋をみつけてほしいと願ったのに。この磁石のN極とS極が引きつけられるような恋の磁力を感じているのは、自分だけなのだろうか。
「そうだね」
「そう……。誠悟はその薬を開発してるの?それともお父様と同じお医者様になった?」
鈴蘭は必死に笑顔を作った。薬の効き目は早く、どんどんと体の発情は去って行く。それでもこんなに誠悟が好きだ。今も、鈴蘭にとって誠悟への恋は運命なんかではなかった。
ひたすらに、恋心なのだ。
「いや、医者にはならなかった。アルファ用の薬の開発が進んでるってきいて、そっちの方に進んだんだ」
「そっか」
「ああ。教授について中国にも行ったよ。仙人みたいなおじいさんがいて、オメガなんだけど、訓練でフェロモンを出さないようにできるとかいう。そのおじいさんが飲んでる漢方薬に抑制剤の効用があってさ──」
七年ぶりの再会だというのに、誠悟は平気な顔をして話す。その姿を見て、新薬は運命の鎖すら裁ち切ってしまうのだと思った。
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