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「慣れてるんですね。失礼ですが……、オメガですか?」 野次馬達が散っていくのを確認して、鈴蘭は女性に尋ねた。 「いいえ、アルファよ。看護士なの」 アルファならば同性といえどもオメガのフェロモンにあてられそうなものなのに、女性はいたって冷静に答えた。よっぽど不思議な顔をしていたのか、女性は鈴蘭を見て、くすり、と笑う。 「抑制剤をね、打ってるの。アルファ用の抑制剤。医療従事者なのに、いざという時オメガだけは看られませんなんて、不公平でしょう?」 「そう……ですね」 世の中は少しずつ変わり始めている。オメガというだけで、虐げられてきた性を持つ者達へ、他の性を持つ人々の方から歩み寄ってきてくれている。 そして、そういう変革の一角に誠悟も関わっているのが、とても誇らしいと思った。 女性と女の子が立ち去っても、まだ誠悟は現れない。早くさっきの出来事を教えてあげたい。誠悟の仕事がこんなに世の中の役に立っているんだ、と、それを目撃した事実を早く伝えたい。 「鈴蘭!お待たせ!」 「誠悟!」 「ごめんな……、遅くなって……。寒かっただろ?」 誠悟は自分のマフラーを首から取ると、鈴蘭の首に巻いてくれた。鈴蘭のスヌードの上からさらにマフラーが巻かれ、もこもこで少し息苦しい。 「ぷ、はっ……。誠悟、息できないよ」 口元まで巻かれたマフラーを少し下げて苦笑いをもらすと、今度は誠悟の腕が鈴蘭の体に巻きついた。 「だって、鈴蘭に風邪ひかれたら、俺、立ち直れないもん」 「あはっ!大げさなんだから……」 鈴蘭も負けじと誠悟に抱きついた。
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