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こんなふうに、普通の恋人同士として毎日を送れるなんて思っていなかった。好きです、と告白しあってから誠悟と恋をやり直す日々。 待ち合わせをして、一緒に食事をしたり出かけたり、別れ際に名残惜しいキスをする。世の恋人達と同じく、ひとつひとつ段階を踏み繋がりを深めていく。そのたびに、誠悟のしぐさや表情が、鈴蘭に好きだと教えてくれる。 こんなにも好きなのは、運命の番だからというだけじゃない。誠悟というひとりの人間に恋をしている。運命の引力による有無をいわせない恋情じゃなく、ふとした瞬間に感じる好意に胸が締めつけられる。そんな普通の恋を、鈴蘭は嬉しく思う。 「あのね、さっき──」 誠悟を待っている間の出来事を、鈴蘭は誇らしげに報告した。 「すごいね。誠悟の研究していることが、世の中の役に立ってるんだよ。誠悟は本当にすごい」 まるで親に手柄を報告する子供のような鈴蘭を、誠悟はまぶしそうに見返してきた。 「すごいのは、鈴蘭だ」 「え?」 「鈴蘭は俺の進むべき道をしめしてくれた。あの薬の開発に参加したいと思ったのだって、鈴蘭が他のアルファに襲われない世の中になってほしいって思ったからだし……。俺は世の中のためなんかじゃなくて、鈴蘭ひとりのためにそういう薬が普及してほしいって思ったから……」 誠悟は少しばつが悪そうな顔をして言った。その耳の縁が真っ赤になっている。 「鈴蘭と出会えたおかげで、母親のことも許せたんだ。鈴蘭に会えなかったら今もきっとアルファとオメガという性を憎んで生きてた……。だから俺にとって鈴蘭は、人生の道を明るく照らしてくれる星、みたいな……。えっと……、上手く言えないんだけど……」
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