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そして九条のすぐ後ろで、まるで彼の影のように佇んでいるのは彼の秘書である由井(ゆい)だ。 由井を見ると、鈴蘭はいつも椿を思い出す。 ミステリアスで男なのにどこか女性的な顔、ひとつに纏めた長くて艶やかな黒髪。 それは椿と似ている。 由井の瞳が鈴蘭を捉え、鈴蘭はどきっと心臓が高鳴った。 普段の鈴蘭を知っている者にこんな姿を見られるなんて。 由井がそっと九条に耳打ちすると、九条は鈴蘭を見た。 「やあやあやあ!これは見違えたなあ!」 九条の声に、また周囲の視線が鈴蘭に集まる。 うつむきそうになる顔を必死に堪え、鈴蘭は挨拶した。 「みっちゃんのおじいさま、おめでとうございます」 未知のことを幼い頃の愛称で呼んだのは、女性のような恰好をしていても自分がいつもの鈴蘭であると認めてほしかったからだ。 九条は鈴蘭の挨拶に、うんうんと頷きながら微笑んだ。 「鈴ちゃん!」 九条と言葉を交わしていると未知の声が名前を呼んだ。 「未知…」 モーゼのように人の波が二手に分かれて出来た道を未知が悠然と歩いてきた。 未知は自分が特別だと知っている。
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