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黒の燕尾服に白の蝶ネクタイ。 クラシカルな礼装は未知にとてもよく似合っていた。 未知は鈴蘭の前まで来ると、くるりと蝶のように回った。 ひらりとゆれるテイルコート。 まるでどこかの歌劇団のスターみたいだ。 「今晩は、鈴ちゃん」 「今晩は、未知。今夜の未知はすごく素敵だね」 きっと今夜のためにあつらえたであろうその衣装を、鈴蘭は本心から褒め称えた。 「どうもありがとう。鈴ちゃんも…よく似合ってるよ」 未知は鈴蘭を上から下までじっくりと見て、クスリと小さく笑った。 「どうも…ありがと…」 同じオメガであるのに、未知はちゃんと男性の礼装を着こなしている。 それに比べて自分は──、クラスメイトの未知にこんな恰好を見られたくはなかったのに。 今宵の鈴蘭のパートナーと未知は顔見知りであるらしく、鈴蘭の隣で挨拶を交わし合う。 そういえば今夜、未知はとっても素敵な彼をパートナーに選んだと言っていた。 その素敵な彼の姿を探したけれど、未知の周りにそれらしき人物はいない。 「未知、未知の彼はどこ?」 未知に誘われノンアルコールのドリンクを作ってもらいに行く途中、鈴蘭はそっと小声で尋ねた。
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