1

20/25
前へ
/194ページ
次へ
「もう!聞いてよ!」 搾りたてのフレッシュなグレープフルーツジュースを片手に頬を膨らます未知。 未知は自分を魅力的に見せるしぐさをちゃんと心得ているようだ。 拗ねた表情は人の保護欲をくすぐってくる。 「彼、今日は模試で遅れるって!僕より試験を選んだんだよ!」 未知はジュースを口に含むとすぐに、苦い、と顔をしかめて舌を出した。 「未知、そんなに不機嫌にならないで。模試って言ってもきっと彼には大切な試験だったんだよ」 小さな王様のような未知。 わがままで世界の中心が自分だと信じて疑わない彼だが、鈴蘭にはそんな彼も可愛らしく映る。 「ん…、そうなんだと思う。彼、将来はお医者様になるんだ。彼のお父様もすごくいいお医者で、おじいさまの心臓の手術の担当医なんだ」 未知はしょんぼりとうな垂れた。 「そう、だったら応援してあげなきゃ。だってたくさんの人達を救う人になるための勉強なんでしょ?」 鈴蘭が慰めると未知は少し機嫌が良くなったようだった。 「鈴ちゃんの彼は?」 鈴蘭達と少し離れて友人らしき男性と談笑をしている今日のパートナーをちらりと見て、未知が笑う。 「彼…って…。彼じゃないことくらい知ってるだろ…?意地悪だな、未知は…」 鈴蘭はきゅっと行儀悪くグラスをあおった。 一気に喉を通り過ぎるグレープフルーツジュースは口内に苦みだけを残す。
/194ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1990人が本棚に入れています
本棚に追加