鈴蘭

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どこか遠い異国の海を想わせるブルーのグラデーションが美しいマーメイドラインのドレス。 それは鈴蘭の体の線にぴったりと沿うように作られている。 全身を映し出す大きな鏡の前に立ち、鈴蘭は自分の姿を頭のてっぺんから足の爪先までじっとりと眺めた。 「はあ…」 情けなさに大きな溜息が出る。 男なのにこんな女の着る衣装を、なぜ自分が着なければいけないのか。 それは鈴蘭がオメガとして生まれてしまったせいだった。 この世は三種の性で構成されている。 α(アルファ)、β(ベータ)、Ω(オメガ)── 世間は平凡な性と言われるベータが大多数を占め、そんな彼らの上に君臨するのがアルファとして生まれた者達だ。 アルファは生まれながらにして優秀であり、カリスマ性とリーダーとしての資質を持つと言われている。 実際、政治家や企業のトップとして活躍する者に多いのがアルファの人間だ。 そして鈴蘭の家系も多くのアルファを輩出していた。 そんな世の中で、アルファよりもベータよりも下に位置しているのがオメガである。 大昔、人間に上下の区別はない、と全人類平等宣言をした外国の偉人はアルファだったそうだ。 それは教科書にも人類平等を謳う文句としてしっかり掲載されているが、だがそれを唱えた者がオメガだったら、きっと彼は誰にも相手にされなかっただろう。 オメガはアルファを狂わす者、ひたすら生産するためだけに存在する者。 そういった偏見は今でも密やかに人々の心の中に存在しているのだから。
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