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重い瞼を持ち上げてみると、鈴蘭は車の後部座席に横たわっていた。 「う……」 底なし沼に引きずり込まれるような体が沈んでいく感覚。 体を起こそうとしたが、まるで鉛のように重い。 「気がつきましたか?」 落ち着いた男の声に視線を巡らせると、運転席でハンドルを握っているのは伏見ではなく、九条の秘書の由井だった。 「あの」 「きつい抑制剤を打ちましたからね。強い眠気や吐き気の副作用が出ることがあるんですよ。おうちに着いたら起こしてさしあげますので、ゆっくりお眠りなさい」 由井はまるで小さい子供を寝かしつけるかのような言い方をした。 由井の声が子守歌のように響き、鈴蘭は目を閉じ車の揺れに体をまかせる。 まるで揺りかごの中にいるみたいだ。 「ねえ…由井さん」 「はい」 「伏見は?」 助手席に伏見の姿はなく、車内は鈴蘭と由井の二人きりだった。 「彼はアルファですから。自制心の強い人ですが、発情期のオメガと狭い車の中で一緒に過ごすのはとても苦しいことでしょう。だから私が伏見さんの代わりにあなたをご自宅までお送りしているのですよ」 「そうなんだ…お手数かけてごめんなさい…」 薬のせいで口が上手く回らず、寝ぼけたような声で謝ると、由井が小さく笑ったのが空気の振動に伝わってきた。
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