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パーティーで九条氏は美しいオメガを何人も侍らせていたが、その中でもとてもミステリアスなのが由井だ。 九条の秘書である由井がオメガである事は誰もが知っている事だ。 今夜のパーティーのような華やかな場所で、由井はいつも九条の斜め後ろにひっそりと影のように控えている。 ゴシップ好きな人達は、由井の事を九条の愛人ではないかと疑っている。 由井の首にはうなじを守る首輪もなければ、番の証である歯形もない。 鈴蘭には、由井が誰の事も愛さない種類の人に見える。 由井の運転は滑らかで、鈴蘭は夢うつつを彷徨いだした。 瞼の裏には誠悟の瞳の残像がちらつく。 あの薔薇の咲き誇る庭で初めて迎えた発情期の事も。 鈴蘭を探していた足音の正体は、伏見と由井だった。 鈴蘭に覆い被さる誠悟を伏見が無理やり引き離し、由井が発情抑制剤を鈴蘭に注射した。 鈴蘭は十七歳になったばかりで、いつ発情期が起こってもおかしくない歳だ。 その可能性を心配して、パーティーバッグの中に錠剤の抑制剤を携帯していた。 御守りにして、と椿がくれた金色のシガレットケースの中に入っている。
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