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「ねえ、由井さん…。僕、甘い香りがするって言われた。僕、あの時どんな匂いだった?」 由井は手を止め、目を細めて鈴蘭を見た。 「甘い香り…ですか」 「うん…、泣きたくなるくらいの、だって…」 伏見も鈴蘭から何かの匂いがすると言っていた。 それがオメガの発情の匂いなのだろうか。 「さあ、私にはわかりかねますね。何せあなたと同じオメガですから。オメガには同種の発情フェロモンはわかりませんからね」 オメガのフェロモンが作用するのはアルファとベータの二種だけだ。 アルファには理性を崩壊させる程の効力を持ち、ベータも少しだけそれを感じ取れるらしい。 「彼らは私達のフェロモンを、匂うと表現しますね。でも実は彼らはそれを鼻腔で嗅いでいる訳ではなく、脳内で感じとっているそうですよ」 「そうなんだ…」 由井の穏やかな声に、昂ぶっていた神経がだいぶ落ち着いてきた。 「しかし泣きたくなるほどの甘い香りとは…。彼はもしかして…」 唇に指先をあてて何かを考えている由井はとても美しくて、フェロモンとはこういう事なのかもと鈴蘭は思った。
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