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その時、視界の端に赤い色が入ってきた。 それは薔薇の花弁で、どうやら薔薇の茂みに倒れ込んだ際、鈴蘭の髪に紛れ込んでいたらしい。 由井はそれを抓むと上着のポケットに入れた。 後でごみとして処理するつもりのようだ。 「待って。それ、僕にちょうだい」 鈴蘭が手を差し出すと、由井は手のひらの上に花弁を置いた。 赤い薔薇の花弁。 鈴蘭はそれを明かりに透かした。 「由井さん、そこの本、取ってくれますか」 デスクの上に置かれた分厚いハードカバーの小説。 つい先日読み終えた外国人作家のベストセラーだ。 「どうぞ」 鈴蘭は本を受け取ると、真ん中辺りのページを開きそっと花弁を挟んだ。 今日の出会いを思い出にするために、本のページに閉じ込める。 次にどこかで誠悟と会っても、もう彼を求めたりしないと誓う。 恋のひと言では収まりきれないこの感情。 でもそれは鈴蘭の友達を裏切ることになってしまうから。
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