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本を胸に抱き誠悟の事を思い浮かべていると、突然ガチャリと何かが開く音がした。 見ると由井が銀のアタッシュケースを開くところだった。 由井はケースの中から銀色の棒を取り出すと、鮮やかな手つきでそれを組み立てていく。 それは点滴用のスタンドで、細くて長いチューブと輸液ボトルがセットされた。 鈴蘭がじっと由井の手元を見つめていると、それに気づいた由井は優しい笑みを投げかけてきた。 「これは強い抑制剤の副作用を落ち着かせてくれるお薬です」 鈴蘭の腕を取り、由井は慣れた手つきで鈴蘭の二の腕をゴムで縛った。 まじまじと見ていると由井が視線を上げて鈴蘭の顔を見た。 「針が刺さるとこ見るの、怖くない?」 「え…、うん」 昔から鈴蘭は注射で泣いたことがない。 皮膚に針が刺さるところをじっと観察するのが好きだった。 由井は鈴蘭の髪を優しく撫でると、「君は強いんだね」と言った。 「由井さんこそ凄いね。お医者様でもないのに、全然痛くない」 由井は一発で点滴の針を刺すのを成功させた。 「私は元は九条製薬の社員だったから。一応医学部出身なんですよ」 「へえ」 ミステリアスな由井の経歴に鈴蘭は感心した。 「医学部ってことはお医者様になりたかったの?」 「……どうでしょう」
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