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これ以上質問するのをやんわりと拒否され、鈴蘭は口を噤んだ。 「星崎君、この屋敷にはオメガの使用人はいますか?これから一週間、君は発情期が続きます。その間、君のフェロモンに作用されない誰か…」 鈴蘭はゆっくりと首を振った。 また眩暈が起こるかと思ったが、全身がひたすら眠気に包まれているだけだ。 星崎の屋敷には通いの家政婦が数名日替わりで入っている。 その中でも一番の古株である君代に鈴蘭は幼い頃から懐いていた。 君代が作る食事は鈴蘭のお袋の味だ。 忙しい母に代わり、君代は鈴蘭を可愛がってくれた。 しかし君代はベータだ。 オメガの発情フェロモンはベータにも少し影響する。 君代に自分の発情を嗅ぎ取られるのは嫌だ。 「……椿ちゃんを呼んで…、お願い…」 目を開けるのが困難なほどの眠気に見まわれる中、鈴蘭はようようそれだけ言った。 気持ち悪さも眩暈も消えたが、意識を失いそうな眠気が鈴蘭を襲う。 抗えない眠りの縁で夢現を彷徨っていると、由井の声が聞こえた気がした。 「君もか…。全く…誰も彼も、椿、椿と……」 寂しさを含んだその声は強烈な睡魔によってかき消された。
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