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箱の中で焼き菓子が砕けてしまわないように大切に抱え、鈴蘭は椿の部屋へと急いだ。 「こんにちは!椿ちゃん!」 館のドアを開け大声で叫ぶと二階へと続く階段の奥から椿が笑いながら現れる。 「おかえり、鈴」 「椿ちゃん!これ、ママからお見舞い!」 早く手渡したくて駆けよる途中、鈴蘭は足を絡ませて転んだ。 「あっ!」 クッキーが割れないようにここまで細心の注意を払って持ってきたのに。 「大丈夫?」 椿は鈴蘭の隣にしゃがみ込み、腕を取って立ち上がらせた。 「僕は平気だけど…割れちゃったかも…」 箱を開けてみると薄焼きのクッキーは真っ二つに割れてしまっていた。 「あ~あ」 「大丈夫だよ。こっちのガレットは無事だし、割れちゃったのだって味は変わらないだろ。テラスでお茶にしようか」 椿に腕を引かれテラスに出ると、屋敷を取り囲むかのように薔薇達が咲き誇っていた。 初夏の日射しに冷たいアイスティーのグラスはすぐに汗をかき始める。 「今日ね、アルファとベータとオメガのこと習った」 その事を椿に知らせたくて鈴蘭は帰宅早々、この離れまで来たのだった。
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