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「鈴!鈴!…鈴蘭!」 耳元で現実の椿の声がした。 椿の声は鈴蘭を悲しい夢から引き戻してくれた。 「椿…ちゃん…」 「鈴、大丈夫?死んだような顔して泣いてたよ?」 「椿ちゃんっ!」 大好きな椿が目の前にいる。 鈴蘭はわっと椿に抱きついた。 「何?怖い夢でも見た?」 なだめるように髪を撫でる椿の手。 それはやはり昨夜の由井の手の優しさと同じだ。 「ううん…、大丈夫。今何時?」 窓は開け放たれ、涼やかな風と明るい太陽の光が部屋に射し込んでいた。 「もうすぐお昼。今日、君代さんに来てもらったんだ。鈴が起きたらご飯作ってくれるって」 日曜日、君代は家族と過ごすため、ここには来ない。 椿か母が気をきかせて君代にお願いしてくれたのだろう。 「抑制剤、飲まなきゃいけないから昼食にしよう」 椿はそう言うと本館に電話をかけた。 「鈴、君代さんが雑炊にしようか、って。ささみほぐして入れたやつ。どうする?」 風邪などで体調を崩した時、君代はほぐしたささみと青菜を混ぜた卵の雑炊をよく作ってくれた。 最近はめったに風邪をひくこともなくなり、久々のその味を思い出し、口の中に涎がわく。 「食べたい!君代さんの卵雑炊!」 鈴蘭が身を乗り出してそう言うと、椿は笑った。 「病気っていうわけじゃないんだけどね。まあ、俺も久々に食べたいな…。君代さん、じゃあそれ二人分お願い」 受話器を置くと、椿は赤い箱を手に鈴蘭の隣に腰掛けた。
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