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「鈴ちゃん、明日のおじいさまのお誕生日パーティー、鈴ちゃんも来るんだってね」 親友の九条未知(くじょうみち)が楽しそうに笑いかけるのとは正反対に、鈴蘭は眉根にきゅっと皺を寄せて顔を背けた。 鈴蘭と未知は私立の男子校のクラスメイトだ。 私立校の中でもトップクラスのアルファが在籍していることで有名なエリート校で、生徒の多くは裕福な家庭の子弟で構成されている。 しかし鈴蘭たちのクラスは優秀なアルファやベータから隔離された、オメガだけが集められた特別学級だ。 金持ちの親の元に生まれたオメガの子供ばかりが集う部屋。 鈴蘭と未知が初めて出会ったのはこの学校の幼稚舎クラスだ。 その頃はアルファもベータもオメガも、同じ教室で共存していた。 中等部に上がる前年、小学六年生の冬、中等部に持ち上がりで入学する予定の生徒が集められ、クラス分けのために彼らがどの性であるか確認するための判別テストが実地される。 幼稚舎から上がってくる生徒たちの家庭は、そのほとんどが両親共々アルファであることが多い。 自分がベータであることがわかり嘆く者達がちらほらといる中で、十二歳の鈴蘭はひとり地獄の底へ突き落とされたような気分だった。 鈴蘭の両親は父母共に優秀なアルファだ。 まさか自分がオメガであるなんて───、この時まで鈴蘭は自分がアルファであると思い込んで疑いもしなかったのだ。 クラスメイト達は仲の良い者同士で集まり、自分がアルファやベータであることをこっそり打ち明け合っている。 鈴蘭は誰かに声をかけられるのを怯え、ひっそりと自分の机に向かい、体を小さくしていた。 「僕、オメガなんだ」 突然耳に飛び込んできた声。 鈴蘭ははっとそちらに目を向けた。 視線の先には友人達の輪の中心で、あっさり自分の性を隠すことなく、花咲く笑顔を振りまく男子がいた。 それが九条未知だった。
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