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いつも行く場所は全て顔見知りの生徒達で溢れかえっていて、人目を避けるように歩を進めているといつの間にか体育館裏のベンチにたどり着いた。 じめっとした日陰のそこで昼食を摂ろうなんていう者は誰一人いないようで、鈴蘭はベンチに腰を下ろしやっと弁当箱を広げた。 今日の弁当箱の中身は君代特製の助六寿司だった。 太巻きの具には、鈴蘭の好きな厚焼き卵と、かんぴょう、青菜、鰻の蒲焼きが巻かれている。 鰻を具にするところを見ると、やっぱり君代は発情期を病気か何かと勘違いして、病み上がりの鈴蘭に精をつけさせようという心遣いがうかがえる。 ひとつ手に取り、大きく口を開いて豪快に放り込んだ。 もぐもぐとリスのように頬を膨らませて咀嚼していると、涙が溢れ出す。 クラスメイト達に無視されても気にしないように半日ずっと気を張っていた。 それが一人きりになって、緊張の糸がぷつりと切れた。 滝のように涙が頬を伝う。 鈴蘭はそれを拭う事もしないで、もうひとつ、もうひとつと巻き寿司を口に詰め込んだ。 弁当箱の半分ほどを空にした時、かさりと草を踏む足音がした。 慌てて涙を手の甲で拭いていると、「やっとみつけた」と優しい声がかけられた。 振り返るとそこに、誠悟がいた。
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