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「待って!」
しかし誠悟が鈴蘭の手首を掴み、立ち去るのを引き止めた。
手首に伝わる熱が鈴蘭の鼓動をさらに速くさせる。
「泣いてただろ?相馬もどこか君の事を心配していたようだし…。話を聞かせてほしいんだ」
「相馬君が…?」
「ああ。相馬とは学力テストの会場で知り合ったんだ。ぱっと見、冷たそうなやつだけど本当はあいつ、優しいんだよ」
知ってる、と思った。
未知とあんな事があったのに、相馬だけが鈴蘭に声をかけてくれた。
鈴蘭の周りには優しい人がたくさんいる。
未知だって優しい人の一人だと鈴蘭は思っているのだ。
「この間は本当にごめんなさい」
鈴蘭は誠悟に頭を下げた。
パーティーの夜、発情して意図せずも誠悟を誘ってしまった。
誠悟は未知の彼なのに。
「あの夜の事は…なかった事にして下さい。箱宮君は未知の彼なのに…あんな厭らしい事して、本当にごめん…」
地面に向けた瞳からぽつんと涙が一粒滴った。
落ちた涙が乾いた土を色濃くさせる。
ぽつん、ぽつんと地面に水玉模様が出来ていく。
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