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九条未知といえば、学内の生徒やその親たちですら一目置く存在だ。 それは未知の祖父が金融界の超大物であることが大きな理由だった。 未知の祖父が何の仕事を主にしているのか鈴蘭には全く想像もつかないが、表向きは慈善事業などにも積極的で、政財界とも強いパイプを持っているということは知っていた。 そして彼には表だって口にはできない裏の顔があるという噂は、誰の口から鈴蘭の耳に入ってきたことだっただろう。 大人達のことにあまり興味のない鈴蘭だが、未知の祖父がすごいというのは未知本人が語らずとも、周りの人間の態度を見て知ったのだ。 そしてその祖父の愛を一身に受けて育ったのが孫が未知だった。 祖父の未知への孫愛は誰もが知るところで、学校の行事などには忙しい合間をぬって顔を出す。 この学園にも多額の寄付をしているらしく、入学式や卒業式にはいつも未知の祖父の名前で祝辞が述べられていた。 そんなすごい祖父を持つ未知がまさかオメガであるなんて。 誰もが、もちろん鈴蘭も、未知は絶対にアルファであると信じて疑っていなかったのだ。 「未知、僕も…オメガなんだ…」 放課後、帰り支度をする未知の隣に立ち、鈴蘭が泣きそうな顔で未知だけにそう打ち明けた。 すると未知はきゅっと鈴蘭の手を握り微笑んだ。 「鈴ちゃん、これからもずっと仲良くしてね」 そう言われた時から、鈴蘭の一番の友達は未知となった。
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