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「噂…?」
何の噂だろう、そういえば、初めて星崎のオメガとしてパーティーに一緒に行った彼も鈴蘭の事が友人達の話題になっていると言っていた。
「鈴蘭がとても綺麗だっていう噂だよ」
鈴蘭を安心させるように笑顔を作る誠悟。
そんな誠悟の気遣いを無視したかのように、能天気に伊奈が声を張り上げる。
「ああ!星崎の次のお人形さんね!」
「お…人形…?」
「そうそう。男のくせに女の恰好をしてホステスみたいに人前に現れるって、あれだろ。ええと…何て言ったかな?花の名前…赤い花…、薔薇じゃなくてチューリップでもない。日本の花っぽい名前の~」
「……椿」
「そうそう!椿!一回見たことあるけど、すげえいい女!あっ、違うか~。男だったっけ」
伊奈は名前を思い出せてすっきりしたようだ。
悪気は全くなさそうだが思った事がすぐに口に出る性格らしい。
鈴蘭に対する気遣いなんてこれっぽっちも感じられないその口調。
「じゃああれかあ。君も女装するんだ?いいね~、すげえ似合いそう。きっと可愛いんだろうなあ」
「伊奈っ!!」
誠悟が伊奈に掴みかかろうとした。
「ちょっ!箱宮君!」
「伊奈!鈴蘭を馬鹿にするな!」
怒りに顔を赤くする誠悟を、伊奈はきょとんと見つめている。
「は?誰も馬鹿になんかしてないじゃん。可愛いって褒めてるじゃんか」
「そこじゃない!お人形だのホステスだの、好き勝手言いやがって!」
更に憤る誠悟を、やはり伊奈は不思議そうに眺めている。
自分が殴られるかもしれないこの状況に全くそぐわないその表情。
「なんで箱宮君が怒るんだよ。全部本当の事じゃん」
伊奈の他人事のような言い方に、ついに誠悟の腕が振りあげられた。
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