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「やめて!誠悟!本当の事だから!伊奈君の言った事、全部本当の事だから彼は悪くないよ…!」 鈴蘭はその腕に縋りつき、誠悟の動きを止めた。 「鈴蘭…」 「伊奈君は…、伊奈君は全然悪くない…。僕は確かに人形みたいに女の服を着せられてたくさんの人の前に出る…。それが星崎のオメガの決まりだから…」 「鈴…」 誠悟に自分のせいで暴力なんてふるってほしくない、鈴蘭は誠悟の瞳を見据えた。 「やめて。お願いだから」 硬い声でそう訴えかけると、誠悟は腕の力を抜いた。 そしてその腕は鈴蘭の体を優しく抱きしめた。 「誠悟…ありがとう」 「ん…。ねえ、鈴蘭…」 「うん?」 「やっとまた…、誠悟って呼んでくれた…」 顔を上げ見ると、誠悟は嬉しそうに口元を緩ませている。 やはり誠悟は笑っているのが似合うなと思う。 「もう…。何言ってんの」 さっきまで怖いくらいに怒っていたくせに、名前を呼んだくらいで幸せそうに笑う人。 その笑顔を見るだけで胸の中の嫌な気持ちは吹き飛び、誠悟の笑顔に同調するように鈴蘭も笑顔になった。
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