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「はいはい、人の前でいちゃつかないでもらえますか~?てか思い出したわ。君、鈴ちゃんだ」
「え?」
「俺、直己(なおみ)だよ。さくらぐみの直己~」
「え、なおちゃん?」
幼稚園の頃、同じクラスに女の子みたいな可愛い顔をした泣き虫の直己という生徒がいた。
直己は幼稚園の年長の夏、親の仕事の都合でシンガポールに引っ越して行ったはずだ。
目の前の伊奈を見るが、小さくて可愛かったなおちゃんの面影はなかった。
背が低くて痩せていて、いつも涙で瞳を潤ませていた直己。
しかし現在の直己は背は鈴蘭より頭ひとつ分は高く、へらへらと笑っている様はいかにも軽そうなタイプに見えた。
「そっか~。どっかで見たと思ったんだ。幼稚園の鈴ちゃんか~。鈴ちゃんさあ、こないだるいるいと歩いてたでしょう?」
「る、るいるい…?」
そんなアイドルのニックネームみたいな名前の人物は知らない。
でも伊奈が見たと言うのだから、きっと鈴蘭の知りあいの誰かなのだろう。
「先に言っとくけど、るいるいは最初から俺のものだからね!好きになるだけ無駄だから~」
「は、はあ…?」
何のことやらさっぱりわからずぽかんと伊奈を見つめているうちに、伊奈はさっさと体育館裏から立ち去って行った。
「…るいるい?」
鈴蘭は行動を共にしそうな仲間の名前をひとりひとり思い浮かべる。
「あっ……!るいるい!」
「鈴蘭?」
たったひとり、その愛称に当て嵌まる生徒の名前を思い出した。
相馬類(そうまるい)。
まさか伊奈が相馬の───。
鈴蘭は開いた口が塞がらないまま、伊奈の立ち去った方向を見つめた。
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