1990人が本棚に入れています
本棚に追加
「おい!何やってるんだ!やめろ、九条!」
何事かと見守るクラスメイト達を押し退けながら相馬が駆けつけ、鈴蘭と未知の間に入った。
「落ち着けよ、九条…!」
「はっ!?お前には関係ないだろ!どいてよ!」
「だめだ。周りを見ろ、九条」
相馬に腕を取られ、未知は息を切らせながら首を回した。
たくさんの好奇の目にさらされている状況に、未知はやっと自分自身を取り戻す事ができたようだ。
「……見世物じゃあないんだけど?」
不機嫌な感情を隠さずに未知が言うと、見物人達は慌てて解散していく。
未知は乱れた髪を手櫛で整えると、何事もなかったかのような顔をして鈴蘭に背を向けた。
「未知…。未知が許してくれなくても、僕、誠悟の事が好きだ…」
これだけは伝えておかなければならない。
未知は一瞬動きを止めたが、そのまま振り返らずに教室に入った。
もう未知とは友達になんか戻れないかもしれない。
自分がオメガだとわかった日から、未知の存在は鈴蘭の支えだった。
「おい、大丈夫か?」
相馬が顔を覗き込んで言った。
余程見ていられない顔をしているのかもしれない。
大切な友との友情の終わりに、鈴蘭は大声で泣きたかった。
でも泣くのはずるい。
未知よりも誠悟を選んだのは自分。
「大丈夫…」
口を真一文字に引き結び、鈴蘭はしっかりと頷いた。
最初のコメントを投稿しよう!