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「椿ちゃん…、僕に勇気をわけて…」 目を閉じると、紅いドレスを身に纏った椿の姿が思い出される。 女性の衣装を身に纏っていても、彼はいつも凜としていた。 ヒールの高い靴を履きこなし、見送る鈴蘭の髪を優しく撫でてくれた。 「そうだ…、あれにしよう…」 星崎の得意客の中にバイオリニストがいた。 彼女のコンサートの夜に椿が着ていた膝丈のワンピース。 肩を隠す半袖がついていて、ふわりと広がるスカートの部分は赤い生地と小花模様のレースで二重になっていた。 椿が着るにしては珍しく可愛らしいデザインのドレス、これなら鈴蘭のイメージを損なう事はないだろう。 何十着もあるドレスの中から目当てのドレスを探す。 椿はどんな気持ちでこれらを着ていたのか考えると悲しくなった。 それは星崎家に生まれてしまったせいなのか、オメガの血が流れているからなのか。 「呪いか…」 相馬が言った言葉を思い出した。 オメガの血が呪いだと言うならば、なぜ自分達は生まれながらにして呪われなければいけないのだろう。 どうにもできない運命を自分達は甘んじて受け入れなければいけないのか。 この世にオメガやアルファなんてなければいいのに。 鈴蘭はやるせない気持ちを椿のクローゼットに閉じ込め、扉を閉めた。
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