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迫り来る恐怖に鈴蘭は床を這いずって逃げた。 「ほら、逃げちゃうよ。早く」 未知はまるで狩りを楽しむかのようにはしゃいで指示すると、男達は鈴蘭を部屋の隅に追い詰める。 「あっ」 瞬く間に五人の男達は鈴蘭の四肢を押さえつけ、ジャケットとシャツを乱暴に剥ぎ取った。 「や…、やめ…」 戦慄く唇からは言葉もはっきりと発せない。 男達の背後から悠然として未知は見下ろしている。 そんな状況の中、鈴蘭は椿の話を思い出していた。 過去に栄えていたという、オメガを頂点とした文明。 今この部屋の中、未知というオメガがアルファ達を支配していた。 椿から話を聞かされた時は、そんな夢みたいな世界があったのかと胸ときめいた。 そこならば鈴蘭はオメガとして卑下することなく生きていけたのかもと思った。 しかしこの小さな世界の中で、自分はやはり虐げられる者として存在している。 同じオメガという性の未知によって。 絶望から全身の力が抜け、手足を押さえられているため抵抗もできない。 なぜ自分はオメガに生まれてきたのだろう。 オメガにさえ生まれなければこんなことはなかったかもしれない。 涙で滲む視界は、まるで壊れたテレビを見ているようにどこか余所事のように見えた。 ぼんやりとした輪郭の世界の中で、鈴蘭は考えること、感じることを全て放棄した。
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