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「何って…。お、お前こそ!僕に何したかわかってるのか!」
未知は立ち上がると由井の襟を掴んだ。
その身長差から未知の方が由井を見上げる位置になっているが、しかしその瞳には王の怒りがはっきりと映し出されていた。
「わかってますよ」
由井は襟元の未知の手を乱暴な手つきで払い落とした。
その力は相当強いものだったようで、未知は小さく「あっ!」と叫ぶと床に倒れてしまった。
「ふ…!ふざけんな!おじい様に言ってやる!お前に暴力を受けたって!お前なんかクビにしてやる!」
激高する未知を由井は冷ややかな表情で見下ろした。
その顔には、鈴蘭に見せた優しさなんてこれっぽっちもなく、能面のような無表情が見ている者の背筋をひやりとさせるほどだ。
「できるものならお好きに」
とりつく島もないような突き放した声に、未知はさらに興奮して声を荒げていく。
「お前なんかただのオメガのくせに!僕は選ばれた特別なオメガなんだ!みんな僕の言いなりなんだからな!」
「うわ~。ばかだね~」
伊奈が場の空気を全く無視した能天気な声を出した。
「己を知らないって、本当に憐れ~」
「…直己様。その件は口外無用に…」
由井は伊奈に目配せをした。
「何だよ!その件って…何だよ!!」
未知の怒りの矛先は伊奈へと移ったが、伊奈は全く取り合うことなく澄ました顔で笑った。
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