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十五歳の冬、伊奈は四月から入学する高校の特別試験を受けに、幼稚園時代を過ごした懐かしいこの学園にやってきた。 事務室で言われた通り、指定の教室の扉を開けるときっちりと同じ制服を着た生徒達がすでに席についていた。 「すいません。伊奈直己です」 試験官の教師に名前を告げると、一番後ろの空席に座るように指示され伊奈は教室を見回した。 その瞬間、ぎゅっと胸を鷲掴みにされるような、直接脳内に訴えかけてくる香りを嗅いだ気がした。 過去に一度、オメガの発情期の匂いを嗅いだことがあり、それととても良く似た匂い。 もしや教室に発情期のオメガが紛れ込んでいるのかと周りを見たが、誰もそれに気がついている様子はない。 おかしいな、と後ろの席へ向かった時、一人の生徒と目が合った。 すぐに、こいつだ、とわかった。 全身から香り立つ甘い匂い。 一人だけネクタイの色が緑色で、この学園がクラスによってネクタイの色を変えているのを知っていた伊奈は、その緑色がオメガクラスの色なのだと察した。
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