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伊奈と目が合ったその生徒は、さっと自分のうなじを手で覆った。 そのうなじにかじりつきたいと、伊奈の本能が訴えかけた。 「なあ、甘い匂いしない?」 昼休み、隣の席の生徒にそう尋ねてみた。 もしかしてみんな黙ってはいるけれど、彼の匂いを感じているのではないかと思ったからだ。 だってこんなに離れていても、伊奈の脳内に甘い匂いはずっと届きこびりついている。 「え?甘い匂い?」 話しかけられた生徒は自分が昼食に用意してきた菓子パンに視線を移した。 パンケーキがどら焼きみたいに二枚重なっていて、間にメイプルシロップが挟まっている。 「これの匂いかなあ?」 伊奈の問いに生徒は的外れな答えを返してきた。 「ちがうよ。その…発情期みたいな匂い…」 小声で人の好さそうな彼に言うと、「あいつじゃない?」と違う方向から声が返ってきた。 声のした方を振り向くと濃紺のネクタイをした、いかにもがり勉タイプの生徒が参考書を広げながら弁当を食べていた。 ネクタイの色は三色あって、緑、紺、赤にわかれていた。 教室に緑はオメガの彼一人、伊奈の隣の席の生徒は赤いネクタイをしていた。
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