【2 座棺】

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 壁に沿って手探りしてみるが、何故かどこまで行っても蔵の入口へと通じる扉が見当たらない。 「ちょ、ちょっと……」  扉のあった辺りを探ると、ザラザラとした壁の漆喰とは違う感触に気付く。間違いなく木製の扉の手触りだった。だがさっきまで開け放たれていたはずの扉は、まるでカンヌキでも掛けられたかのようにびくともしなかった。 「な、なんだこれ……。と、扉が閉まってる!」  声が震えるのも構わず、私は叫び声を上げる。真っ暗な部屋の中に一人取り残された恐怖で、私は半ばパニックになっていた。 「灯子さんっ! 開けて下さいっ!」  力任せに扉を叩くが、頑丈な扉が開かれる様子は全くなかった。それどころか、電球のフィラメントが灯る気配も、どこかに人が居る空気すら感じられなかった。  視界を失ったまま、私は扉を何度も殴りつける。 「く、くそっ! あ、開けろっ!」  闇雲に腕を振り回したため、引き手の出っ張りに引っ掛かったのかもしれない。指先に鋭い痛みが走る。 「ぐっ……」  慌てて手を押さえる。暗闇の中でも、ヌメッとした感触とともに人差し指と中指の爪がぐらついているのが分かった。 「くそ……爪が割れた」  膝をついて痛みに呻いていると、何か嫌な臭いが鼻をつく。それは蔵に染み付いた空気や湿気とは明らかに違う、生き物が腐ったような臭いだった。 「何……だ?」  扉を背にして振り返った私は、思わず息を飲む。  私の目に映ったのは……、  部屋の奥に置かれた、人柱の浅葱が命を落とした桶の周囲が――、  仄かに、青白く光り始める光景だった。
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