【3 屍蝋】

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 その瞬間、桶の蓋が外れ、ガタンと床に落ちる。桶から溢れ出した鮮血が、私のすぐ足元まで床を満たしていた。 「ひ……い」  そして血に満たされた桶の中から、屍蝋化した浅葱の頭部がゆっくりと姿を現す。頭蓋に垂れ下がった白い皮膚の間から、血に染まった浅葱の眼球だけが獲物を狙うかのように動き始める。 「グ……ググ……ググ」  この世のものとは思えないような唸り声とともに、その眼球が私の姿を捉える。 「う……あああああああっ!」  私はその場に座り込んだまま、目を閉じて叫んだ。  桶から溢れ続ける村人たちの血が、体を真っ赤に濡らしていく。  息もできないほどの腐臭と血の匂いにまみれたまま、視界が真っ暗な闇に飲み込まれていく。  私は、ただ叫び続けるしかなかった。  この音を失った世界で、絶叫など何の役に立たないことが分かっていても。  すぐそこに、おぞましい姿の浅葱が手を伸ばしているのが分かっていても。  息が続く限り、私はただ、叫び続けた。  ぷつんと糸が切れるように、意識が途切れるまで。
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