【1 取材】

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 もちろん私は民俗学者でも国文学研究者でもない。肩書きといえば、「凝り性の素人物書き」くらいだろうか。実際に今回も神指の民俗資料館に足しげく通い、ようやく館員である汐原さんに取材を取り次いでもらったのだ。  途切れた話の合間に少し冷めたお茶を飲もうとした時、美濃部灯子が唐突に口を開く。 「神指の伝承でしたら、人柱になった『浅葱』の話なのでしょう?」  思わぬところで浅葱の名前が出て、私は湯のみの茶托をカランと鳴らしてしまう。 「え、ええ。その話も含めて……ですね」  思わず上ずった声で答える。まさに私が美濃部滋吉に聞こうとしていたのは、『浅葱』という一人の少女の話だった。美濃部灯子は長い黒髪をゆっくりと留め具で束ね直しながら、静かに口を開く。 「どの地方にも似た話はありますから。あまり後味の良い話ではありませんが」  私がもう少し話を伺いたいと申し出ると、彼女はやや困ったように考える素振りをした後、ゆっくりと足を崩す。それはまるで私の心境を見透かしていて、あえて焦らしているようにも見えた。  古めかしい柱時計の振り子の音だけが響く中、彼女は一度湯気の立ち上る湯呑みに視線を移した後、静かに話し始める。 「ずっと昔……江戸時代のことです。とある夏、数ヶ月にも渡って日照りが続き、この神指村も飢饉に見舞われました。作物も採れず井戸や村の水源である神指池の水も干上がり、村人の半分近くが餓死したと言われています」 「半分も……」 「ええ。そのため村の行く末を危惧した村の長たちは、一人の村娘に雨乞いの人柱として白羽の矢を立てた」 「人身御供(ひとみごくう)ということですか」 「そうですね。その人柱にされたのが、『浅葱』という十八歳の少女だったと言われています」
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