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「浅葱を人柱にすることで、村は飢餓から救われた。けれどそれは同時に、浅葱の祟りをこの村にもたらした」
声の主は、間違いなく灯子だった。彼女は扉を隔てたすぐ向こう側で、私の……いや、桶の中の浅葱の様子を伺っている。
私は慌てて扉を叩く。
「と、灯子さん……開けて下さい! 桶の……桶の中から……」
だが彼女は私の言葉に耳を貸そうとはせず、抑揚のない声で話し続ける。
「浅葱は呪った。この村を。自分の命を生贄にした、村の人々を。彼女はその桶の中で息絶える寸前、最後に呪いの言葉を残した。『この村を永劫に呪い続けてやる』、と……」
「わ、私は神指村とは関係ない! なのにどうして……」
その間にも、むせ返るような腐臭とともに浅葱の腕は桶を掻き続ける。振り返ると、腕の覗く桶の縁からは、肉片まじりの血潮が溢れ出していた。
「う……」
吐き気がするような臭いに口を押さえていると、灯子の声が扉越しのすぐ耳元から聞こえてくる。
「浅葱の祟りを怖れた村人たちは、その怨霊を鎮めるために、ある儀式をした」
「ぎ、儀式?」
「自らの罪と汚れを払うための……禊。この地方では『身削』と言うわ」
「み……そぎ」
「そう、実際に自らの身を削ぎ落とす、という儀式。だから村人たちは少しづつ自らを体を小刀で切り裂き、その肉を掘り起こした浅葱の桶に入れた。ある者は指を、ある者は足の肉を、またある者は耳を、舌を、目を」
「う、嘘だ……」
「いつしかその桶の中は村人の血肉で満たされた。神指村に居る者は全て、何世代にも渡って『身削』を行う。それがこの村の風習なの」
「そんな……」
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