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【2 座棺】
屋敷の一番奥にある離れに、その蔵はあった。
夕闇の迫る屋外に一度出てから、私と美濃部灯子は蔵へと向かった。玉砂利の敷き詰められた中庭を歩きながら、私は前を歩く彼女に話し掛ける。
「どうして……浅葱の桶がここに?」
「元々は神指神社の祭具殿に収められていたものです。でも数年前に宮司が亡くなって以来、神社自体も廃れてしまいました。だから今は、うちの蔵で預かっているんです」
「祭具殿というと、今でもこの地域では祭祀が?」
「ええ。祭りの時にはこの桶を使うんです。中に生贄に見立てた巫女を入れて」
「まさか……本当に土の中に埋めるって訳じゃないでしょう?」
驚いて訊ねる私に、彼女は淡々と答える。
「昭和の初めまでは、人柱の入った桶に蓋をして、実際に地面の中に埋めていたようです。もちろん、すぐに掘り起こしたみたいですが」
「危険じゃないですか? 窒息とか生き埋めとか」
「ええ。だからさすがに行政指導が入ったらしいですね。なので今は、巫女が中に入る演舞だけで済ませています」
「そう……ですか」
この灯子という女の話は、どこか他人ごとのようだ。達観しているというべきだろうか、まるで感情が見えてこない。
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