見えない敵意

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「あ……泉様ですね。只今確認致しますので少々お待ち下さい」 急いで今日のアポイントの表を確認していると、突然泉さんに声をかけられた。 「何かあったんですか?」 その言葉に驚いて、思わず彼女の顔を見上げた。 「あ、ごめんなさい急に。ただ……なんか悲しそうな顔してたから、つい」 「……申し訳ありません」 お客様にそんなこと言わせてしまうなんて、受付として最低だ。 全然、仕事できてない。 「大変ですね。辛い事があっても、顔に出せない仕事って」 そう言って彼女は、バッグから小さなミラーと、口紅を取り出した。 担当者が来るまでの、単なる化粧直しのはずなのに……その行動から目が離せなかった。 彼女が手にしている口紅が、陽くんの車で私が拾ったものと全く同じだったから。
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