見えない敵意

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この人が……彼の車の助手席に乗った人? そう思った途端、急に言いようのない不安に襲われた。 「何か?」 泉さんが私の視線に気付いて、不思議そうに私を見る。 「いえ……あの、綺麗な色の口紅だなと思って……」 私の声は……震えていないだろうか。 「あぁ、これですか?私も凄く気に入ってるんです。最近ちょっと失くしてしまってたんですけど、あとから見つかって。限定モノだからもう売ってない色なんで、戻ってきて良かったです」 嬉しそうに笑う泉さん。 今にも泣きそうな私。 陽くんは言ってた。 同僚何人かが車に乗ったときに落としたものだって。 この人と2人きりじゃなかったって信じなくちゃ。 彼を、信じなきゃ。 「見つかって良かったですね」 最大限の笑顔を作って、泉さんにそう言った。
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