触れた唇

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「じゃあ、こっちでいい」 そう言って今日1日ずっと触れたくて仕方なかった彼女の手を掴んで自分の方に引き寄せた。 ほんの一瞬だけ絡み合った視線。 そしてそのまま彼女の唇にキスをした。 触れるだけのキスは、甘いのにガム以上の刺激。 正直こんなキスじゃ全然足りないけど、今はこれくらいにしておくか。 「……眠気覚めた。じゃあ俺行くわ。一応このチョコももらっといてやるよ」 彼女の手の中にあったチョコのスティックをもらい、俺はその場を去った。 ちらっと後ろを振り向くと、目を見開いたまま動かない彼女。 油断しすぎなんだよ。 少しは俺のこと意識しろ。 驚いて動けない彼女とは真逆にいい気分で会社へ行くと、営業部の連中が必死で紛失したデータを探していた。 「主任!」 俺が入って来た事にすぐ気付いた村瀬が駆け寄ってくる。 「すみません出張帰りで疲れてるところ呼び出してしまって……」 「お前が謝ることじゃない」 データを紛失した張本人の営業事務の佐藤は、ただ泣いているだけで探そうともしていなかった。
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